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唾奇

June 07,2017

Sweet WilliamとのWネーム・アルバムをリリース。
等身大のリアルを歌う沖縄在住のラッパー

PHOTO: Toshiya Ohno

From ISSUE 54 (05.31.2017)

KANDYTOWNのIO、YOUNG JUJUとともにBCDMGの楽曲「Same As」への参加、CHICO CARLITOの「一陽来復」への客演などで話題を呼んだラッパー、唾奇。その唾奇がビートメーカーのSweet Williamとタッグを組んだアルバム『Jasmine』が4月にリリースされた。このアルバムで唾奇のラップは、Sweet Williamのクラシックス感漂うジャジー&メロウ・ビーツが絶妙な融合を見せている。沖縄の特殊な生活環境で育ったと言う唾奇。あくまでも等身大の目線で日常のことをリアルにラップするのだが、そこには毒もあれば希望もある。唾奇に渋谷で話を聞いた。

FLJ リリックやタイトルでも「那覇市Ghetto」とか「The girl from Yosemiya」とかあるんだけど、生まれも育ちも沖縄?
唾奇 そうです。那覇のめちゃくちゃ田舎にある寄宮(よせみや)っていうところです。普通にドブとかあって。生活排水が普通に流れてて。スゴく蚊が多いところすね。建物のコンクリとかも普通に落ちてきますね。周りの家全体が昔からある家で、ボロボロのところが多いすね。しばらく行ってないけど、住んでたところすね。

FLJ 音楽、ヒップホップとの出会いは?
唾奇 小6の時、姉ちゃんが彼氏とセックスしてる時にキングギドラの「トビスギ (Don’t Do It)」が流れてて。俺もセックスしてえなと思って聞き耳立ててたんすよ。喘ぎ声聞いてたつもりなのが、あ、カッケエ!ってなって。そこからCDレンタルして、カセットテープにダビングして、ずっとそればっか聴いてたっすね。

FLJ キングギドラはお姉さんと彼氏のどっちの趣味だったの?
唾奇 彼氏の方ですね。その彼氏からはいろいろ教えてもらいましたね。服とか音楽とか全部。言われるがままに、「これ着て」って言われたら着て。彼氏はBボーイだったんだけど、すぐ不良に戻ったすね。沖縄ってちょっと特殊で。ヤンキーはゴルフウェアとかを着るんすよ。それを国際通りに盗みに行くんすよ。チャリの後ろに乗って、「ハンガーかかってるヤツを片っ端から取れる分取れ」って言われて。国際通りは昔は荒れ狂ってたすね。シンナー吸いながら道歩いてる人ばかりで。国際通りに行こうもんなら、持ってるもの全部なくなるし。殴られるか金取られるかみたいな。

FLJ キングギドラからは何を聴くようになったの?
唾奇 スチャダラパーとか聴いてたっすね。教えてもらったのしか聴いてなかった。周りにそういうの知ってる人いなくて。でも中2、中3の時にいきなり流行りだして。めちゃくちゃウェッサイが強かったすね。それこそ今「日本語ラップ」のくくりで言われてるシーンがなかったんすよ。どこに行ってもウェッサイのイベントで。ウェッサイが日本語でラップすることの主体だと思ってたんすよ。

FLJ 自分でもラップをやろうと思ったきっかけは?
唾奇 当時ウェッサイのイベントで、ダンサーが2組くらい踊れるシステムがあったんすよ。それに憧れてダンス始めたんすよ。コネクションが全くなくて。じゃあラップしたらコネクションできるかなと思って、ラップ始めたんだけど。そしたらダンスが面倒臭くなって、ダンスやめて。ラップだけずっとやってて。それがきっかけですね。

FLJ いざラップをやろうって時にどういう風にやろうと思った?
唾奇 僕、2年遅れで高校に入ったんすけど、そこでめちゃラップ詳しいヤツがいて。ネットラップとか聴いてて。いろいろ曲とか教えてもらって。そこからネットラップにめっちゃハマって。「パソコンさえあれば、けっこう簡単にレコーディングできるっぽいよ」って言われて。クソしょぼいパソコン手に入れて。スカイプ・マイクを直接挿してレコーディングしてたすね。僕、外出るのめちゃくちゃ嫌いで、人付き合いも苦手なタイプなんで、ずーっと曲作るだけの生活やってたんすけど。地元の友達がイベントにちょいちょい誘ってくれるようになって。ライヴを2~3回やったんすけど、歌詞飛ばしたりして。「あ、無理だな、家でラップやろう」ってなって。それが4回目くらいの時に、全く人のいない現場があって。そこでCHOJIさんに声をかけてもらって。「おまえめっちゃカッコ良かったわ」って言ってもらって。そこからちゃんとやろうと思って。現場に出始めたのはそこら辺ですね。その時にCHICO CARLITOとか一緒にいたっすね。でも、いざ自分でやろうと思った時には、全然現場がなくて。それで始めたのが、HITOBASHIRAっていうイベントで。自分でイベントやって、自分でラップしてったすね。そのHITOBASHIRAはずっと引き継いでて、KANDY TOWNとか呼んだりして、いまだにやってるっすね。

FLJ Sweet Williamとの出会いは?
唾奇 僕が働いてたバーがあって。外にスピーカーをガンと置いて、日本語ラップをずっと外に向けて流してたんですよ。そこでかけてたSHUREN the FIREを聴いて、Williamが「シュレンじゃん」って言って入ってきて。1本コロナ飲んでくれて、その間に「僕ビート作ってるんですよ」「あ、そうなんすね。僕ラップやってるんすよ」。じゃあツイッター交換しましょうってなって。すぐその当時に僕が作ってた「阿弥陀」っていうデモを送って。その1年後くらいに『Peat Grape』っていうWilliamがフリーで出した、今所属しているレーベル「Pitch Odd Mansion」のメンツが全員いるヤツに、Williamからやろうと言われて。僕だけ別から入ってきて。「提灯」っていう曲をやったのが、Williamとやり始めたきっかけすね。

FLJ 今回のアルバムでも感じる相性の良さはその時から感じた?
唾奇 一番合うっすね。リリック書いてても楽しいし、Williamのビートはいろいろやれるっすね。自分の中でもアイデアが広がるというか。「ここ、こうしたいな」って、自然と書かされてる感じになるから。

FLJ アルバムを作るに当たって、どういうアルバムにしようかというアイデアはあった? 
唾奇 めちゃくちゃ日常感が伝わるようなもの。けっこう自分でも変だなって思う生活を送ってて。僕も友達も、沖縄で普通の社会と離れた場所で生活してるから。そういうのを聴いたら面白いのかなと思って。だからリアリティを重視して作ったすね。

FLJ 確かに、等身大のリアルだと思うし、あと、ヤバイ環境であろうが、そこで変に上昇志向を持ったり、逆に落ちたりもしていないよね。そこは割とドライだなと思って。
唾奇 それは思うすね。僕自身がめちゃくちゃドライな人間なんで。

FLJ でもそこにちょいちょい毒のあるワードが入ってくるのも面白かった。
唾奇 たぶんひねくれてるんだと思います。その毒にしても、相手に対する皮肉だったりもするけど、自分に向けて書いてることもけっこう多いんすよ。

FLJ あと、女に対してはひどい男でしょ? 「能なしマンコ」とか言わないでしょ(笑)。
唾奇 女に対してというか、バカが嫌いなんですよ。僕も人のことは言えないんすけど。でもバカって多いすよね。ここ最近めっちゃあるんすけど、アルバム出して、いきなりちやほやされだして。渋谷とか歩いてても声をかけられるんすよ。「唾奇さんですよね。写真撮ってください」とかはいいんすけど。「あ、唾奇だ。写真撮ってよ!」だと、人として違うだろって。まあ普通にニコニコしてますけどね。「友達でも何でもないんで、いきなりタメ口利くのやめてください」って。

FLJ 「身体で抱いても頭で抱かない」っていうラインも「そういうのあるな」って思ったしね(笑)。
唾奇 俺が言ってることって、普段男がみんな思ってることだと思うんすよ。だけど言わないじゃないすか。だからこっそり共感してくれたらなっていうのが一番あるすね。

FLJ 「Good Enough feat. kiki vivi lily」っていう曲もそういう感じだよね。「何かと元カノとかのことを書いてるのは手っ取り早くMONEY作るためだから」なんて言ってるし。
唾奇 もう自分の手に届く範囲のことしか歌ってなくて。だから本当、生活すね。

FLJ でも自分の人生観を歌った「道 -Tao」なんかは良い曲だね。
唾奇 けっこう昔に作った曲なんですよ。「道 -Tao」を書いた時は、いろいろやってたこととか人生が二転三転して。自分でも思い入れのある曲だなと思って。

FLJ そういう自分のリアルな表現をどう聴き手に届けたいとかはある?
唾奇 全然ないですね。人にどう聴いてほしいとかなくて。自分のやりたいことをやってるだけなんで。全体通して、言ったらオナニーじゃないですか。それを人が聴いてくれるか、聴いてくれないかの話じゃないですか。だから聴いてもらえたらありがたいですね。

FLJ ラップのスタイル、韻とかフロウで特に気にしている部分はある?
唾奇 全くないですね。例えばイメージして、「じゃあこういう感じの曲がカッコいいから、こういう感じの曲をやろう」と言ってやったら、全然違うものができるんすよ。だからもう意識しなくなったすね。

FLJ じゃあリリックはどういう風に書いてるの? ポンと出てきたものをそのまま使う感じ?
唾奇 そうです。ビートありきでもないんです。僕、歩きながらリリック考えるんで。普通にポケッと歩いてる時にパッと浮かんだことを携帯にメモっていくんすよ。そこから全部広げていくっすね。一つの気に入ったワードがあったら、そこから全部広がる。テーマもそこで決まるし。きっかけはその1ワードすね。「こういう曲を書こう」っていうのは一切ないです。僕のリリックは適当だと思いますよ。

FLJ でも1枚アルバムを完成させた今、新しくいろいろやりたくなってくる時期だと思うんだけど。
唾奇 今めちゃくちゃラップ楽しくて。生活に張りもあるし。沖縄で月に1、2本あるかなっていうライヴを追って生活してたわけっすよ。それが今は、どこどこに行ってライヴして、東京に来て取材とかラップ以外のこともやらせてもらって、暇する時間がなくなったから暇な時間も大事に思えるし。今ある環境も大事に思えるし。一生懸命できてるし。今を大事にしたいなと思ってますね。

FLJ 考え方も変わったわけだね。
唾奇 だいぶ変わったすね。それこそ住所もゲトれたし(笑)。今まで3~4年、ホームレスみたいになってて。でも飛行機に乗る時にたまに身分証明書が必要で。それで取りに行ったんすよ。でもこういうのもラップがきっかけじゃないすか。どこどこに行く時に自分の身分を証明できなかったらマズイ。だから取ろうと思ったわけです。あと、家族との関係も全部外れたんで。元々家族もいないんすけど。そのいない家族のしがらみがあって。やっとそこから抜けれたんで、立て直しですね。

FLJ 特殊な生活環境についても聞きたいんだけど。
唾奇 604というクルーというか、一緒に生活してるファミリーがいて。標準が5名なんです。鹿児島から来たのが1人、ヒッピーの王様みたいなのがいて、女の子がいて、徒歩で日本一周してるのが1人。日本一周してる人が来てから料理のクオリティがいきなり上がったんすよ。いきなり美味いものが出てきて。そこに人が集まってきて。平均で5人、多い時は20人とか。ワンルームすよ。きれいなマンションなんすけど、その部屋だけスラムになってて。で、パスタができると、鍋をバンと置いて、第1班が食べて、満たされたら横にハケて、残りのヤツらが食べる。犬みたいなんすよ。今回、そういう環境でアルバムを作ったんです。周りに15人、20人おかしなヤツらがいる状態で、ケンカとかするから、「静かにしろ」って言いながらラップして。だから、めちゃくちゃ苦だったっす。誰かが声出したり、生活音立てたりとかした時点で、切って、すぐにやり直しっていうのをやってたんで。

FLJ 音楽的に、ラップ的にこれからやっていきいことは?
唾奇 今回はSweet Williamと二人で作ったアルバムじゃないすか。このアルバムきっかけで僕の認知度が広がれば、「ビート売ってください」って声かけやすいじゃないですか。いろんなビートでやってみたいすね。それを年内中に出したいので、今動いてるところですね。

FLJ ライヴの方はどんなスタンスでやってるの?
唾奇 俺はアーティストとして見られたくないというか。あくまでも市民代表。ステージに立つけど、俺はステージじゃなくてもいいし、みんなと同じ目線でライヴもしたいし。だからちょいちょいステージから降りるし。それこそが等身大なのかなって思うんすよね。「俺は金持ってて、おめえらとはちげえ」とかじゃない。「おまえらも金ないし、俺も金ないし、一緒だわ」って感じすね。「俺もクソだし、おまえもクソだろ」みたいな(笑)。でも、それで有名になって金稼いで、「金持ってるぜ」って言えたら、それもリアルだと思うし。結局俺は俺でしかないから、自分の身の丈以上のことはできないから。

FLJ そのリアルがどう変わっていくのかも楽しみだね。
唾奇 これで僕が外車とか乗ってたらマジでウケるすもんね。変な家庭環境だったし、みんなより持ってるものも少なかったと思うし。そういうヤツがラップで金稼いで今メシ食ってるよって言ったら、それこそが夢だなと思うし。マジでカッコいいなと思うんで。

FLJ 改めて、ラップをやってて良かったことは?
唾奇 ラップをやってて良かったことはわからないすけど、ラップをやってなかったら、マジでゴミだなと思うすね。これ以外やることなかったし。今は自分の生活になってるし。曲を作らなきゃじゃなくて、自然に曲を作ってるし。ライヴも、別に自分のライヴがなくても、仲間がやる時は絶対に行くし。それが生活の基準になってる。やってたバイトもだんだん減ってきてるし。バイトの方が美味いメシが食えるんすけど、好きなことやって食ってるメシって良くて。もっともっと稼ぎたいし、バンバン作品も作りたい。

FLJ 今後の活動の拠点も沖縄のまま?
唾奇 ずっと沖縄にいますね。自分のフッドを上げれんかったら、意味わからんじゃないすかね。東京っていろんな人がいるし、それだけチャンスも多いとは思うんすよ。

FLJ 沖縄にスターがいれば、アーティストもみんな沖縄に行くだろうしね。
唾奇 いろんなところに行ったんすけど、やっぱ俺、沖縄はメッカだなと思ってて。毎週県外からいろんなアーティストも来てライヴしてくれるし。で、集客率が沖縄ってスゴくて、安定してるんすよ。200、300は余裕で。僕のやってるイベントはもっと力入れてるから、もっと人呼べるし。1000人規模のイベントをやりたくて。9月に1本、HITOBASHIRAを打って、それを助走にして、12月に自分のリリース・パーティを自分でやりたいなと思ってますね。

FLJ ゆくゆくはどういうアーティストになりたい?
唾奇 とりあえずこれでメシ食えるところまでは持っていきたいですね。それ以外はないっす。



唾奇 × Sweet William
『Jasmine』
(Pitch Odd Mansion)
4月19日リリース

Pitch Odd Mansion
pitchoddmansion.main.jp

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