
October 18,2019
全世界待望の3rdアルバム、『ハリウッズ・ブリーディング』が遂に完成!
From FLJ ISSUE 68(9.30.2019)
TEXT: 宇野維正
マイケル・ジャクソンの記録を34年ぶりに破ったり、前作がリリース後24時間、1週間のストリーミング再生回数の新記録を樹立したりと、セールスなどの記録も破格なポスティーことポスト・マローン。今年の7月にはニュー・アルバムが完成したことを報告していたのだが、いよいよ『ハリウッズ・ブリーディング』というタイトルがつけられた通算3枚目となるニュー・アルバムが完成した。大御所オジー・オズボーンら豪華ゲスト参加アーティストたちも話題になっているが、ポスティーの真骨頂である、カテゴライズ不可能なジャンルレスな楽曲がさらに進化しているのにも注目なのだ。ポスティーはどういうアーティストなのか? そして新作はどういうものになっているのだろうか?
2019年9月6日にリリースされたポスト・マローンのサードアルバム『Hollywood’s Bleeding』は初週に3億6540万回という今年最高の週間ストリーミング数を記録。もちろん、ビルボードのアルバムチャートでも前作『Beerbongs & Bentleys』に続いて初登場1位。同週のシングルチャートではトップ20に9曲(トップ5に2曲、トップ10に4曲)と、昨年のドレイクによるチャート制圧以来の「ポスト・マローン現象」を巻き起こしている。
新しいスターは、常に新しい価値観をたずさえてやってくる。ポスト・マローンが体現する価値観、それは政治的にも社会的にも混迷が続いているこの時代において、誤解や矛盾や政治的な正しさ(あるいは誤り)に気をとめる気配すら見せることなく、享楽主義へと突き進んでいくその豪胆な生き様ということになるだろう。それは言い換えれば、彼に現在のケタ外れの成功をもたらすきっかけとなった「rockstar」(2017年)のリリックにも綴られていた、60年代や70年代のロックスター的ライフスタイルの現代版ということになるわけだが、重要なのはその「現代版」の部分だ。ビデオゲーム「Guitar Hero」でギターに目覚め、メタルバンドでギターを弾いていたテキサスの少年は、いかにしてメタルの神様オジー・オズボーンと当代一の人気ラッパーのトラヴィス・スコットを一つの曲(「Take What You Want」)で従えるようなスーパースターとなったのか? ここまでの歩みを振り返りながら詳らかにしていきたい。
ポスト・マローン(本名オースティン・リチャード・ポスト)の音楽的バックグラウンドを語る上で欠かせないのは、若い頃にはモトリー・クルーやボン・ジョヴィのようなファッションに身を包み、テキサスに引っ越す以前にはニューヨーク州シラキュースでウェディングDJ(結婚式などを盛り上げるために派遣される出張DJ)の仕事をしていた父親からの影響だ。職業上、自分のテイストだけではなくあらゆるジャンルの音楽をカバーする必要があった父親は、カントリー、古典ロック、グランジ、ヒップホップをはじめとする、あらゆるジャンルのポップミュージックに精通していて、家の中でも常に音楽を聴いていたという。現在のポスト・マローンのジャンルを横断した幅広い音楽性は、その時期から培われていたわけだ。
10歳の頃にテキサスに引っ越し、「Guitar Hero」で半年間テクニックを鍛えた上で本物のギターを手にしたポスト・マローンは、やがて地元のタレントショーでリアーナ「アンブレラ」のメタルカバーを披露して優勝したり、地元のメタルバンド、クラウン・ジ・エンパイアのオーディションを受けたりと、ミュージシャンとして身を立てるために積極的なアクションを起こしていく。当時彼がオーディションで披露していたカバーのレパートリーはガンズ・アンド・ローゼズからアウトキャストまでというから、その音楽の雑食性はデビュー前からの筋金入りのものだったことがわかる(syracuce.com「Rapper Post Malone’s father talks Syracuse roots, musical influences — and haters」)。
もっとも、そのような音楽的なスキルやセンスだけで、ポスト・マローンは現在の地位まで上り詰めたわけではない。2015年8月、当時20歳になったばかりのポスト・マローンがデビューシングル「White Iverson」で一躍注目されるようになり、その後も話題を次から次へと世間に振りまいてきたのは、彼がネットカルチャーの申し子であったことと無縁ではない。地元のカレッジをドロップアウトし、親友とロサンゼルスでルームシェアをして暮らしていたポスト・マローンだが、その親友の名前はジェイソン・プロブスト。ビデオゲーム・ファンの間では「マインクラフト・ユニバース」(現在は「フォートナイト・クリップス&ハイライツ」)というチャンネル名で知られるゲーム実況サイトの運営者、つまりは人気YouTuberだ。2018年の初来日の際にはヒカキンがポスト・マローンとの2ショット写真をソーシャルメディアにアップして日本で話題になったが、そんな「人気YouTuberとポスト・マローン」という組み合わせは、ジェイソン・プロブストのゲーム実況動画へのゲスト出演でポスト・マローンのことを初めて知った多くのアメリカのティーンにとっては、以前からお馴染みの構図だったのだ。
Amazonが運営するゲーム実況サイトTwitch にも自身のチャンネルを持っているポスト・マローンは、ティーンにとってステージ上にいる雲の上の存在のスーパースターというより、ネットの実況動画でゲームをしている気のいい兄ちゃんだ。そんなポスト・マローンの新しい時代のスター像は、彼が「rockstar」「Psycho」「Sunflower」とナンバーワン・ヒットを連発して巨万の富を築くようになってからも変わらない。2018年6月には「Always Tired」(いつもぐったり)と両目の下にタトゥーを入れてファンを驚かせたポスト・マローンだが、そんな言葉とは裏腹にどんな有名になってもファンと同じ目線での社交を厭わない彼の姿勢は、ジャスティン・ビーバーをはじめとするスターたちから一目を置かれる理由にもなってきた。ポスト・マローンが体現しているのは、2010年代の「セックス、ドラッグ&ロックンロール」としての、「インターネット、ビデオゲーム、アルコール、シガレッツ、マリファナ&ラップミュージック」だ。
「ハロウィンのショーでは、俺に扮したファンがたくさんいたよ。誰にでもできるけどな、ホームレスに見えりゃいいんだから」とブレイク直後の2017年に語っていたポスト・マローン(Rolling Stone「Post Malone: Confessions of a Hip-Hop Rock Star」)。20代前半にしてはだらしないその体型も、無造作に伸びた髪や髭も、全身や顔に増え続けるタトゥーも、どんなハイブランドの服に身を包んでも垢抜けないそのファッションセンスも、すべては既存のエンターテインメント業界の価値観に背を向けた彼のアティチュードの表明だ。今年に入ってから、ポスト・マローンはハリウッドからユタ州ソルトレイクシティへと居を移し、そこで「1人っきりでビールを飲んでビデオゲームをやるため」の豪邸を構えた(Apple Music「Post Malone: ‘Hollywood’s Bleeding’ Interview」)。
最新アルバム『Hollywood’s Bleeding』には、10代の終わりにロサンゼルスに出てきて、2010年代後半の音楽業界における最大級の成功を収めて、24歳でその「血塗られた」土地を去ることを決意したポスト・マローンによる「ハリウッドへの惜別」が綴られている。今作でゲストとしてフィーチャリングされているのはDaBaby、フューチャー、ホールジー、ミーク・ミル、リル・ベイビー、オジー・オズボーン、トラヴィス・スコット、SZA、スワエ・リー、ヤング・サグといった錚々たる面々。特筆すべきは、ファーストアルバム『Stoney』のクエイヴォ(ミーゴス)や2 Chainz、セカンドアルバム『Beerbongs & Bentleys』の21サベージやタイ・ダラー・サインやニッキー・ミナージュやYGに続いて、今作にも同時代のラップミュージックのキーマンたちがこぞって参加していることだ。
ジャンルを横断する白人ミュージシャンの多くがそうであるように、ポスト・マローンもデビュー当初から「文化の盗用」についての嫌疑を、主にヒップホップ界隈の音楽メディアや批評家からかけられてきた。グラミー賞のような音楽業界の権威もまた、ポスト・マローンのことを「ラップか? ロックか?」で扱いあぐねてきた。しかし、彼がデビューシングル「White Iverson」をリリースした時にマック・ミラーとウィズ・カリファが絶賛したことに始まり、これまで一貫して彼の音楽の良き理解者となってきたのは同業者たち、つまりミュージシャンやラッパーたちだった。『Hollywood’s Bleeding』には、もはやラップでもロックでもなく「ポップ」としか言いようがない多くの曲が収められている。そして、それらの曲は今まさにこのタイミングで世界中で熱狂的に支持されている。2010年代後半におけるポスト・マローンの活躍は、音楽シーンにおけるジャンルの壁の崩壊を大きく促進することとなった。「ポップ」という価値観のもとにあらゆるジャンルの壁がさらに無効になっていくであろう2020年代も、ポスト・マローンが引き続き音楽シーンのトップを走り続けていくのは時代の必然と言えるだろう。
『ハリウッズ・ブリーディング』
(ユニバーサルミュージック)
日本盤10月9日リリース

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