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DENZEL CURRY

January 31,2019

昨年のアルバム『Ta13oo』でネクストレベルに到達したサウス・フロリダ出身のラッパー

From FLJ ISSUE 64(1.30.2019)

PHOTO: UG Yuji Kaneko

10代の時にSpaceGhostPurrpのクルー、Raider Klanで活動後、2013年のデビュー・アルバム『Nostalgic 64』が評価され、2016年には2ndアルバム『Imperial』をリリースし、雑誌XXLによるFreshman Classに選出されるというキャリアを積んできたデンゼル・カリー。昨年のアルバム『Ta13oo』では、卓越したスキルと多彩なスタイルを見せつつ、自身の内面の問題から、今の音楽シーン、大統領選まで、様々な切り口で楽曲を展開し、そのコンセプトと構成力とでラップをアートとして昇華させた意欲作となった。初来日公演中だったデンゼルをライヴ前にキャッチした。

FLJ 日本は初めてですか?
デンゼル・カリー その通り! 日本はすべてがクレイジーだね。日本の漫画と同じ世界だよ!

FLJ リリックにも出てくるくらいだから、日本は大好きですよね。
デンゼル・カリー Yo! 日本に着いた瞬間、もう用意はできてたよ。ガンダムを見るぞ。マリオカートを攻めるぞ。ゲームをやりまくるぞ。だって俺は今日本にいるんだから。昨日TVで相撲も観たよ。本物の相撲も観たいな。LAにはリトル東京があるんだけど、今俺がいるのはビッグ東京だ。

FLJ 最新アルバム『TA13OO』の中でも、相撲をテーマにした「Sumo」や『ドラゴンボール』の超サイヤ人をテーマにした「Super Saiyan Superman」があったりするし、2015年の曲「Ultimate」でも『ドラゴンボール』ネタで「あいつに仙豆を渡すんだ、そうすれば力が回復する」とか「俺はブロリーに変身する」とか出てきますよね。
デンゼル・カリー 子供の時から日本のカルチャーが大好きなんだ。『ドラゴンボール』も当然好きだからリリックに出した。アニメが大好きだったんだよ。

FLJ 『ドラゴンボール』以外に好きなアニメは?
デンゼル・カリー 『ワンパンマン』、『サムライチャンプルー』とか。『デスノート』はスゴく好きだったな。『NARUTO -ナルト-』も好きだし、もうすぐ始まる『サムライ8 八丸伝』も楽しみだね。作者が同じ(岸本斉史)なんだよ。

FLJ お父さんも昔日本にいたそうですね。
デンゼル・カリー 横須賀の海軍にいたんだ。俺が生まれる前の話だよ。親父から「おまえは絶対日本が好きになるよ」って言われた(笑)。

FLJ 最新アルバム『TA13OO』について聞きたいんですが。楽曲のクオリティ、リリックのディープな内容、アルバムのコンセプトと構成力、ラップのスキル、音楽的な面、あらゆる面で明らかに違うレベルに到達したと思います。ここに至るまで、自分の中ではどういう風にクリエイティヴ的な追求をしてきましたか?
デンゼル・カリー とにかく一生懸命仕事をしたんだよ。俺の仕事のモットーは立ち止まらないことだから。だから休まずに仕事をしたんだ。何故俺が音楽を作ることを大好きになったのか。そこの基本に立ち戻ってみて、そこを追求してみたんだ。それでたどり着いたのが、俺自身を制限するものは何もないっていうこと。ルールなんてない。自分のやりたいことは何だってできる。それで、自分の作りたい音楽は何だって作ってやろうっていう結論に達したんだ。俺はそれを形にしていっただけさ。だからこそ今のこのポイントに到達できたんだ。そのポイントというのは、自分自身を信じることであり、一生懸命仕事をすることなんだよ。

FLJ このアルバムの制作はどのようにアプローチしていきましたか?
デンゼル・カリー 制作を始めた時、俺は人生のダークな部分に身を置いてた。そこでアルバムの「Dark」パートを作ったんだ。人生のいろいろな局面にいる時はアルバムの「Grey」パートを作った。自分が幸福に向かってる時は実際にハッピーになれてたし、その時にアルバム制作は終盤に差し掛かってた。それがアルバムの「Light」パートになってる。それで最後に順番を逆にして、「Light」から始まって、「Grey」になって、「Dark」パートをアルバムの最後に持っていったんだ。

FLJ アルバム全体を通して、どういうコンセプトのものをどう見せていきたかったんですか?
デンゼル・カリー 「Dark」パートは自分の人生で起こったこと、経験したこと、出会った人たちを描いてるリアリティなんだ。そのリアリティが突きつけてるのが次の「Grey」パートで、これはリアルなパートなんだ。今見せるけど、すべてのプランをスマホにメモしてるんだ。
(見せてもらったメモはかなりの量で、いくつかの項目に分かれて、それぞれの項目で、アルバム制作の意図やコンセプトが箇条書きで書かれていた)
自分が今どこにいるのか確認するために、メモを書き続けたんだ。そこから書いたことを形にしていったんだ。アルバムのリリースが決まった時に、このメモをすべてマネージメント・チームに送ったよ。ここにはアルバムの全体像がある。それで、どういうパッケージにするのかも決まったんだ。名前、スタイル、バックグラウンド、サウンド、象形文字、タブー、陰謀……すべて書いてあるよ。自分ですべて体系づけて考えたんだ。マスタープランだよ。プランを考えれば考えるほど、自分が必要とするものがわかっていったね。それで自分が作ってるものが視覚化できたんだ。

FLJ ここまでやるとはスゴいですね。曲ごとのリリックのトピックはどのように考えていったんですか?
デンゼル・カリー どの曲も俺の人生、俺がどういう人間なのかっていうことの一部なんだ。だからこそこういう形でアルバム作りを始めたんだよ。これは俺の精神面に対する大きな一撃なんだ。アルバムの1曲目には性的虐待をテーマにしたものを持ってきたのも、自分の人生の中に占めてる大きなものだからなんだ。そこから始まって、「Grey」パートでは、さらに自分の精神面に関する問題をスゴいたくさん扱ってる。大人になった今の俺が扱うありとあらゆる問題だよ。それで「Dark」パートでは、自分がこのアルバムを作り始めた時のものの見方、考え方に立ち戻ってる。つまり自分の人生の最も暗い部分だ。そこでアルバムの全体像が見えてくるわけだ。

FLJ アルバムを作り終わった後は解放された気持ちになりましたか?
デンゼル・カリー スゴく解放されたし、救われたね。アルバム制作が終盤に向かっていく過程でハッピーになっていったくらいだから。アルバムを最初から中盤、さらに最後まで聴いてみたら、さすがに自分でも凄まじいものがあるなと思ったよ。本当にスゴいプロジェクトになったと思う。聴いてくれた人がきちんと受け止めてくれたらなと思うよ。

FLJ 1曲目の「Taboo」で性的虐待のことをテーマにしているとのことですが、これも人生の一部なんですよね。
デンゼル・カリー 自分の経験に基づいてるんだけど、女性に置き換えて、よりかみ砕いた内容にしてるよ。

1月19日に恵比寿リキッドルームで行われた初来日、一夜限りの来日公演。スクリーンに映し出された映像をバックに登場したデンゼル・カリーは、とにかく力強い。観客を彼の世界観に思い切り引き込み、シンガロングさせたり、バウンスさせたり、ウォール・オブ・デスみたいなことや、観客にしゃがませてから飛跳ねさせたりとか、とにかく会場全体を盛り上げる。終盤のブチ切れたような勢いと会場が大きく揺れる感じは本当にスゴかった。

FLJ テーマは多岐に渡りますよね。名声、憎しみ、パラノイア……。
デンゼル・カリー 大統領選もテーマにしてる。俺の政治に関する視点を書いたんだ。昔の曲で「俺は投票しない」なんて言ってたけど、トランプはひどい大統領だし、彼のせいで政府の機能は停止状態に陥ってる。トランプがやってることは実現不可能な国境の壁の建設なんだ。移民を追い出すためだけにやってるんだよ。バカバカしい。俺は政治に首を突っ込むつもりはなかったんだけど、今はそんなことを言ってる場合じゃないんだ。これは俺のコミュニティのためだからね。人々に向けて、今何が起こってるのか伝えていくべきだから。アメリカという国が今どうなってるのか。俺みたいな黒人は特に伝えていかなきゃいけない。見なよ、これが俺たちがやるべきことだ、俺たちは行動を起こさなきゃいけない、あいつを追い出すためにこれをやらなきゃいけないって。1票の価値は大きいんだ。だから次回正しい人に投票すれば大きく変わっていくはずさ。何でも手に入れようとするヤツじゃなく、ちゃんとした人間に投票すればね。

FLJ トランプ政権における人種差別についてはどう思います?
デンゼル・カリー ひどいよな。でも今は誰もがトランプを嫌ってるよ。彼は核心に触れてしまったからね。

FLJ 「Sirens」という曲では、トレイボン・マーティン(2012年、当時17歳だった黒人の高校生トレイボン・マーティンが自警団員のジョージ・ジマーマンに射殺されるという事件があった)について触れていますよね。
デンゼル・カリー 彼は同じハイスクールに通ってたんだ。俺がその学校に入ったのは彼が学校を出た後だったんだけど。彼は俺がSpaceGhostPurrpのクルーのRaider Klanにいる時、Raider Klanの音楽のファンだったんだよ。

FLJ 「Clout Cobain」では、ニルヴァーナのカート・コバーンをモチーフにして、今の時代のアイコンとなる人間のこと、死を美化する傾向について歌っていますよね。この曲を作ろうと思ったきっかけは?
デンゼル・カリー 俺自身、ある友人がいて、彼の死に対してひどく動揺してしまったんだ。その気持ちは誰にも伝えてなくて、音楽に込めたんだよ。そしたらわかってもらえるだろうと思ってね。

FLJ 今の時代のアイコンが置かれている状況はカート・コバーンと似ているからですよね。
デンゼル・カリー みんな20年経ってもいまだにカート・コバーンを賞賛してるだろ。でもその理由は間違ってるんだ。彼が死んだのはドラッグ・カルチャーの中だ。だけどみんながカート・コバーンの死を美化してる。彼は自分自身の作られたイメージの中で今も賞賛されてるんだ。Lil Peepの場合もそうだよ。彼が死ぬまでは誰もが彼のことを話題にしてたわけじゃなかった。X(XXXテンタシオン)のこともみんなは間違った理由で話題にしてるよ。今みんながXのやってきたことの一部になりたがってるのは、Xが死んだからなんだ。スゴく変な感じだよ。若死にするのが美化されてるなんて。カート・コバーンも27歳の若さで亡くなってるだろ。俺は今年24歳になるから、27歳まであと3年だ。でも俺は生き残るし、自分を大切にしないといけない。

FLJ 「Clout Cobain」のミュージック・ビデオは、曲のメッセージを伝えやすいものになっていますね。
デンゼル・カリー この曲は絶対にビデオを作りたかったんだ。だけどこんなに人気が出るとは思わなかったな。ストライプのシャツを着てるのは、囚人をイメージしたものなんだけど、カート・コバーンのファッションだと思ってる人もいるんだ。まあそれは観る人次第なんだけどね。

FLJ 今の音楽シーンにおけるドラッグについては、「Percs」のリリックでも触れていますよね。「俺はヘイトすらしようとは思わない、ただ自分とは関係ないことは言わないだけだ」って。
デンゼル・カリー 俺という人間は自分で言ってないこととは関係ないし、俺が言ったことは俺という人間から出てきたものだから。つまり俺は自分とは関係ないことを言ってまで有名になんかなりたくないし、バカなことなんて全くしたくないから。

FLJ 『Ta13oo』を出した後の今、次は何を考えていますか?
デンゼル・カリー 楽しみたいだけだね。自分のやり方で続けていきたい。他の誰の人生でもないんだから。

FLJ 『Ta13oo』のゲスト参加アーティストで気になったんですが、「Vengeance」という曲でゲストに迎えたJpegmafiaとZillaKamiとのコンビネーションは素晴らしかったですね。
デンゼル・カリー ZillaKamiなんだけど、みんなはよく俺と彼のことを比較するんだ。ある時インスタに「おまえはZillaKamiに似てる」って書かれてたんで、ZillaKamiのインスタを見てみたら、「デンゼル・カリーみたいだな」って書かれてたんだ。それがきっかけで彼と知り合って、話すようになったんだ。彼の曲「33rd Blakk Glass」を聴いた時に、めちゃくちゃタイトじゃんと思って。それで彼に連絡したんだ。「Vengeance」は元々はGunplayが参加してたんだけど、彼のヴァースがあまり好きじゃなくて、それでZillaKamiに送ったら翌日返してきたんだ。Jpegmafiaの方はマネージャーが曲を送ってたんだ。それで良かった方を採用しようと思ってたんだけど、マネージャーが「二人とも入れたらどうだ?」って言うのでそうしてみたら、ヤバいものが出来たってわけだ。

FLJ 自分にとってヒップホップとは?
デンゼル・カリー わからないな。音楽は自分にとってスゴく大きな意味があるよ。いや、音楽じゃないな。アートが自分にとってスゴく大きな意味があるんだ。ヒップホップはそのアートの一部だよ。


『Ta13oo』
2018年7月27日リリースの3rdアルバム
(Concord / Loma Vista / Hostess)

https://www.ultimatedenzelcurry.com

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